帰還せよ 北東の国原付の旅⑤ 岩木山・八甲田山

八甲田山

国道102号線、394号線103号線を次々に乗り換え八甲田山の登山口酸ヶ湯(すかゆ)温泉に向かった。途中こけし館という非常に魅力的な看板を見つけたが、カブにこけしを括り付ける夢は諦め酸ヶ湯温泉への坂をふかして登った。

もう少しところで嫌なものを見る。おいしそうなソフトクリームのように発達した積乱雲が山頂にかかっている。あれだけ天気が良かったらこうなることは想像に難くなかったのだが、青空に受かれた私は思考を放棄しここまで来てしまったのだ。

もう後戻りはできない。酸ヶ湯温泉に到着したときには雲に包まれていた。

まだ降ってはいないと自分に言い聞かせ出発した。とたん降り始めた。しかし、下りれば日本有数の温泉が待っているという事実が私の気持ちを大きくした。ぬかるんだとざん道を進み増水を恐れながら沢を渡った。

広い台地にでた。池塘があらわれ高原植生に感動する。こういうのはカンカン照りよりも霧と雨が少しあった方がいいのだ。そうだろ。

ナントカの湧き水 水量が少なかったので飲まないでおいた

すでにずぶぬれだが行動時間は短いのでこのまま歩ききれるだろう、と山頂まで行くことにした。ガレ場を上がると風雨の大岳が私を待っていた。

長くはとどまれそうにない。早急に写真を撮り周回コースになる大岳鞍部避難小屋方面に降り始めた。登山者は皆無で不安が募るが、ここまで濡れると逆にすがすがしい。

長い長い階段を下ると視界が開け八甲田自慢の高原湿地が姿を現した。雲は山頂付近にだけかかっていたようだ。雨に濡れた植物と雲の切れ間から差し込む陽光が池塘で反射し幻想的な風景を生んでいた。

思わず立ち止まりしばらく眺める。きっと冬も素晴らしい山なんだろうなと思いを巡らせ木道を歩いた。木道は水に沈み、ジャブジャブ歩くことができる。まるで自分が湿地の一部になったような気分である。

防水ケースに入れていたので画質が悪い

ずっと遊んでいたいがさすがに体が冷えそうなので下山した。

酸ヶ湯温泉は素晴らしかった。立派な建物に真っ白な湯。湯治の宿として昔から栄えているようで、宿泊客の姿も目立つ。風呂上がりに広い休憩室に厚顔構え荷物を広げ乾かしていた。今日はさらに下まで下り道の駅で野宿をせねばならぬ。

「兄ちゃん兄ちゃん、ひとりか?」
「え?はい、そうですけど」
「これ、一緒に飲もうや」

老夫婦が話しかけてビールを差し出してきた。ありがたいがこれから私は運転せねばならない。

「今から下まで運転しないといけないんスよ~」

舐めたく口の利き方である。

「泊まればいいじゃん」
「いや、それができればいいんスけどそんなかねないので今日は野宿です」
「泊まりなよ、私らお金払うから、ほら、これまず飲んで!」
「!!!!????!!」
「いいからいいから」
「いいんスか!!」

人の厚意も一度は断り遠慮を見せるという社会通念を私は身に着けていない。

「受付で食事空いてるか確認してきて、すぐ会計行くから。私らと同じ部屋でもいい?」
「こんなところに泊まれるならなんでも!!」

かくして初対面の夫婦に宿をお世話になることになったのだ。しかも一泊二食付きだ。なにか善行でも働いたかと考えたが思い当たる節は全くない。

話を伺っていると、北関東で会社を営み毎年夫婦で旅行しているそうだ。奥さんの方は軽度の認知症、それでも恒例の旅を続けているというから涙ものだ。なぜ見ず知らずの若者に声をかけ安くない宿代まで出してくれるのか、と伺うと

「年寄りは若者に口を出さずに金を出せ。これが大事なんだよ。」

素晴らしい。なんてすばらしい。上からに聞こえるかもしれないが、このような考え方をお持ちの先輩方がいるということに非常に驚いたしまさに社会の豊かさに貢献している方々だと心底感心した。

夜は旅館飯。固形燃料でクツクツ焼く牛肉と一人でも食べきれるか怪しい量の小鉢。さらに酒までつけてくれた。私、とても満たされています。

夜は彼らと一緒の部屋に寝る。危機管理能力、かっこよく言えばリスクヘッジの正反対にある行為だが、性善説を信じて疑わない私は見事に熟睡した。

世の中には自分の想像を超えた考え方、素晴らしいお金の使い方を知っている人たちがいるものだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました